大人の流儀 2011年 - 伊集院 静 -
大人の流儀 - 伊集院 静 -
硬派の印象を感じていた作家であるが小説は読んだことがない。威圧感がある人となりに興味が湧きエッセイ集を購入した。波乱の多い人生、酒、ギャンブル、結婚と離婚、そして死別など著者の生き様が分かる。
冒頭、新人への叱り方について「職場で怒る人が少なくなっている」と嘆き、「怒りなさい」「叱りなさい」「どやしつけなさい」と断言する。硬派の面目躍如である。「力を持つものが白い球を"これは黒だよね?"と訊く。"はい、それは黒ですね"と返答しなければならぬ時が人生にはいくどとなく訪れる。(8p)」という一節がある。
言い尽くされた表現だろうが、後日読んだ溝口敦の著書「暴力団」に載っている組長からの親子の杯を交わすときの口上「白いものを黒いと言われても、"はい"と答えなければならない」と同じである。職場も暴力団に通じるところがあるのか?「私は何をしたらいいのでしょう」という若い人に著者は旅を勧める。若い人は「旅をして何があるのですか?(15p)」と反駁する。彼は旅にモノを求め、著者は旅にモノ以外の人や感情を求める違いがある。「世の中は今、すぐに答えを求める」の「答え」は"結論""決着""安心"と置き換えていい。人には正解と不正解の間にある不安定なところに身を置くことを受け入れる度量が必要だろう。
「どんな会社に就職したらいいですかね。」という質問に「魅力的な経営者」「魅力のある社員(114p)」を選ぶことを勧めている。就活に奔走する学生に本命の会社について「その会社の社是は?」と質問しよう。「シャゼ?」と質問の意味すら分からない学生も多い。若い人はカネやモノに目が向いてしまい、ヒトの存在と力に気づかないことが多い。
最後に「愛する人との別れ」の項で終わる。白血病になり27歳で亡くなった前妻、夏目雅子の闘病と著者の看病の記録である。著者が若すぎる彼女に告知できなかったこと、癌に対して随分と勉強して今でも医療雑誌を読むこと、やりたいことをさせるべきだったと生還にこだわり過ぎた自分の悔やんでいること、一方、彼女は治療に対して不平は一度も口にしなかったこと等はどうしても一気に読み通してしまい、しっとりと終わる。
【名言】
- 不安は新しい出口を見つけてくれる唯一の感情(14p)
- 町内、同じ地域、知り合いの店で買物することは損得だけで選択してはいけない。(72p)
- (愛国心について)日本人は何ひとつ犠牲になろうとしないと思っているアメリカ人は多い。(106p)
- (ミシュランを非難しながら)味は人である。(168p)
- 親しい方を亡くされて戸惑っている方は..時間が解決してくれます。だから生き続ける。(189p)
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