「格差社会 何が問題なのか」 - 橘木 俊詔 - 2006年
○経営者
日本の経営者には「創業経営者」と、かつては雇用される側であった「サラリーマン経営者」がいて前者は短期間で大きな実入り(93p)を高いリスクとともに求め、後者は給与格差を求めず従業員の立場に理解を示す。、前者の代表として、かつてのライブドアの堀江代表と阪神電鉄を買収しようとした村上ファンドを揚げている。もちろん後者には違和感を感じている。かつて経済や雇用の牽引役だったいわゆる大企業より、自分で起業しようとする彼らは性急に結果を求めようとする。
○なぜ医者になるのか
たった27万人の医者、つまり人口の0.2%が富裕層の15%を占める。過熱、集中する医学部に人材が集中することは日本社会にとってマイナスではないか。(98p)何のために医者になるのかを考えさせられる。責任重大で過酷な産科や小児科の医者が不足する。一方で低リスクで高収入な美容外科に人気が集中する。人は何のために働くのか考えさせられる。
○法人成り(102p)
法人税に逃げ込む「法人成り」が進む。村上ファンドの村上世彰がシンガポールに、トップスピンで四大大会を次々に制覇したテニスプレーヤーのビヨン・ボルグが巨額の賞金とともに税金の安いモナコに移住した。そう言えばスイスに住民票を移転させ納税しなかったハリー・ポッター シリーズの日本語翻訳者が申告漏れを指摘されたことを思い出す。私事だが補助事業を受けた経営者が計画通り行けば「しっかりと納税して補助金を返す」と呟いていた。一方で故郷や祖国で恩恵を受けたら故郷や祖国に納税で返すことが出来ない亡者が増えている。
○格差拡大の国(133p)
米国ではGated communityが登場し富裕層が安全を囲い込み、かのGhettoと対極をなす。著者はその日本版の象徴として「六本木ヒルズ」を揚げた。私の周りにも「六本木ヒルズもどき」が林立している。安全を隔離によって確保することが定着しつつある。日本の底力は安全が保障され、コストがかからないことだった。しかしコストがかかり始めた。そのコストはやがて個人から社会(行政)へとシフトするだろう。給与に100倍の格差がある米国型の企業の象徴GMと、10倍の格差である日本型の企業の象徴トヨタの生産性はどちらが高いか。前者は存亡の危機にある企業の労働者が労働条件の引き下げにNoを突きつけた。後者はハイブリッドの売り上げで僅かであるが赤字を縮小した。
○効率性と公平性のトレード・オフ(p156)
効率性と公平性が両立しないと確信していた小泉元総理は「格差の何が悪い」と言った。日本の行く先はどこになるのか。効率性を追求する米国型か、公平性を重視する北欧型か。もう少し北欧を研究した方が良い。
○職業教育は誰が(181p)
職業系高校が衰退している。一方でフリーターには進学校でない普通科出身者が多い。誤解を恐れずに言えば思い通り進学できないし、技術も持たない人材を世の中に大量生産する仕組みが大量にフリーターを作ってしまっている。著者はこれを補うため行政が職業訓練を提供すべきと言っている。企業に訓練する余力はない。
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コメント
◆技術者等の非正規雇用を明確に禁止すべき
▼民主党は、マニフェスト案において、『原則として製造現場への派遣を禁止』とす
る一方で、『専門業務以外の派遣労働者は常用雇用』としています。『専門業務』の
『常用雇用』が除外され、かつ『専門業務』に技術者 (エンジニア) 等が含まれると
すれば、これは看過できない大きな問題です。
技術者 (エンジニア) 等の非正規雇用 (契約社員・派遣社員・個人請負等) を明確
に禁止しなければなりません。
改正前の労働者派遣法に関する「政令で定める業務」の内容は、技術の進展や社会
情勢の変化に対し時代遅れになっており、非正規雇用の対象業務を、全面的に見直す
必要があります。
また、派遣社員だけではなく、「契約社員」・「個人請負」等を含む非正規雇用を
対象としなければなりません。
【理由】
●技術者等の非正規雇用が『製造現場』の技能職に比べて、賃金・雇用・社会保険等
において有利だという誤解があるならば、そのようなことは全くない。長時間労働
など過酷な労働環境に置かれている割には低賃金の職種で、雇用が安定しているか
というと、『製造現場』の技能職以上に不安定である。
技術者等が『製造現場』の技能職に比べて過酷な労働環境に置かれているにもかか
わらず、非正規雇用として冷遇されるのであれば、技術職より技能職の方が雇用・
生活が安定して良いということになり、技術職の志望者が減少して人材を確保でき
なくなる。努力して技術を身につけるメリットがなくなるため、大学生の工学部・
理学部離れ、子供の理科離れが加速する。一方、技能職の志望者は増加し、技能職
の就職難が拡大する。
●技術者等の非正規雇用が容認されると、マニフェスト案『中小企業憲章』における
『次世代の人材育成』と、『中小企業の技術開発を促進する』ことが困難になる。
また、『技術や技能の継承を容易に』どころか、逆に困難になる。さらに、『環境
分野などの技術革新』、『環境技術の研究開発・実用化を進めること』、および、
『イノベーション等による新産業を育成』も困難になる。
頻繁に人員・職場が変わるような環境では、企業への帰属意識が希薄になるため、
技術の蓄積・継承を行おうとする精神的な動機が低下する。また、そのための工数
が物理的に必要になるため、さらに非効率になる。事業者は非正規労働者を安易に
調達することにより、社内教育を放棄して『次世代の人材育成』を行わないように
なる。技術職の魅力が低下して人材が集まらなくなるため、技術革新が鈍化、産業
が停滞する。結局、企業が技能職の雇用を持続することも困難になる。
●派遣社員だけではなく、「契約社員」・「個人請負」等を含む非正規雇用を対象と
しなければ、単に派遣社員が「契約社員」・「個人請負」等に切り替わるだけで、
雇用破壊の問題は解決しない。
企業は派遣社員を「契約社員」や「個人請負」等に切り替えて、1年や3年で次々
に契約を解除することになり、現状と大差ない。
▲上記の様に、『製造現場への派遣を禁止』するにもかかわらず、技術者等の非正規
雇用 (契約社員・派遣社員・個人請負等) を禁止しないのであれば、技能職より雇用
が不安定となった技術職の志望者が減少していきます。そして、技術開発・技術革新
や技術の継承が困難になるなどの要因が次第に蓄積し、企業の技術力は長期的に低下
していきます。その結果、企業が技能職の雇用を持続することも困難になります。
これを回避するには、改正前の労働者派遣法に関する「政令で定める業務」の内容
を見直して技術者等の非正規雇用を禁止し、むしろ技術者等の待遇を改善して、人材
を技術職に誘導することが必要です。これにより、技術者等は長期的に安心して技術
開発・技術革新に取り組むことに専念できるようになります。その成果として産業が
発展し、これにより技能職の雇用を持続することが可能になります。
もしも、以上のことが理解できないのであれば、管理職になる一歩手前のクラスの
労働者ら (財界人・経営者・役員・管理職ではないこと) に対し意識調査をするか、
または、その立場で考えられる雇用問題の研究者をブレーンに採用して、政策を立案
することが必要です。
投稿: | 2009年8月27日 (木) 18:01
雇用問題を重視する人は、情勢によっては社民 (または共産) に投票すべき
衆院選での投票先調査で、特に社民党が伸び悩んでいるようです。
自民・公明に愛想をつかした人が民主に流れるのは、結構なことです。
しかし、元々社民 (または共産) 支持の人が民主に流れるのは、場合によっては良いことではありません。
雇用問題を重視する人は、投票時に最新の情勢を判断し、比例区では
(1) 自民・公明に対し民主が確実に優勢でない場合は民主に投票し
(2) 自民・公明に対し民主が確実に優勢である場合は社民 (または共産) に投票した方がよいでしょう。
現実問題として、民主党の中には保守的な議員も多くいます。
連立を組む社民党議員が減少し、民主党が単独過半数を超えると、
民主党が保守化する懸念があります。
この点は要注意です。たとえば、
民主・社民・共産各党の本部・各都道府県支部・各衆議員候補・各参議員に対し、
技術者等の非正規雇用禁止を希望するメールを送ったところ、
社民党の都道府県支部の一つからは、次のような回答がありました。
> メール有り難うございました。
> 民主党のマニフェスト内容で「原則として製造現場・・・・派遣を禁止」についても、押し上げるのに大変でした。
> 民間大企業の労働組合は、多くは旧同盟系が主流なので、「製造現場への派遣の禁止」には、かなりの抵抗がありました。
> 社民党の踏ん張り抜きには出来なかった事項ですが、指摘された「技術者等の非正規雇用禁止」はかなりの協議が必要かと思います。
> 派遣労働そのものを禁止する状況に引き戻すには、専門業務以外はしっかりと派遣を禁止することをガードすることが、まず重要と思います。
> 政権交代は確実です。社民党は、雇用、平和で民主党のブレを引き戻し、闘いながら政権内でガンバルことが役割です。
> 今後とも、意見をメールして下さい。
これによれば、社民党の発言力が弱くなると、非正規雇用対策が後退する恐れがあると考えられます。
したがって、雇用問題を重視する人は、情勢によっては社民 (または共産) に投票すべきでしょう。
賢い有権者なら、戦略的に投票しましょう。
この件は特に強調していただきたいと思います。
以上、自民・公明に対し民主が圧倒的に優勢である場合に考慮すべき話です。
投稿: pMailAgency | 2009年8月27日 (木) 18:01