「武士道」その1 -新渡戸稲造- 1899年
武士道 |
藤原正彦が著書「国家の品格」で「新渡戸の武士道は、私が幼い頃から吹き込まれてきた行動基準が同一(122p)」と言い切った。気になる本だが、武士道を西洋人に紹介しているから百年以上前の英文著書である。原著「Bushido The Soul of Japan」を読む勇気はないが書店で「読みやすい現代語新訳」と書いた本の帯に誘われた。
やはり英文を和訳した印象は残るが、言葉の難しさは別にして細かく表題が付いているお陰で仕事の合間に少しずつ読んでも理解できた。新渡戸は国内外の宗教の理解し著書を読み込んでおり、広範な知識が盛り込まれている。新渡戸は執筆した動機を法学者や米国人の妻から「宗教教育がない日本にどうして道徳が行き渡るのか」という疑問への回答としている。
○武士道とはなにか
武士道は「不言不文の語られざる掟、書かれざる掟..サムライの心の肉襞に刻み込まれ(19p)」として「歴史の中で..自発的に醸成され発達(19p)」したというものの今となってみれば、このBushido自体が宗教における聖書に見える。そうなれば、成文化された思想が英文と言うのも皮肉である。
封建制度が侍という職業的武人階級を創り出した。「もっとも勇敢で、もっとも冒険的な者..から..選び抜かれ..臆病者や弱い者は捨てられていった..野獣のように強く、極めて男性的な、粗野な連中(21p)」が名誉と特権を得る一方で責任と義務も課されるようになった。さらに行動の規範が必要になった。そこで「勇猛果敢なフェアプレーの精神(22p)」、つまり道徳が芽生えたという。まるで零細企業が大企業にのし上がる風体である。
○武士道の源はどこにあるか
三浦梅園が「少ししか読書をしない者は少し学者くさく、大いに読書している者はさらに学者くさく(30p)」単に知識だけをもつ者は単なる「便利な機械」としている。ここで王陽明の「知行一致」を引用している。ふと養老孟司が文武両道と題して「バカの壁」で同様に陽明学と「知行一致」を紹介していたことを思い出す。
○「義」そして「勇」
「もっとも厳格な徳目(35p)」である「義」を思想家 林子平は「身の処し方を道理に従ってためらわずに決断する力(35p)」と語り、孟子は「人の道」と言った、この「義」のために「勇」は行われる。論語に「義を見てせざるは勇なきなり」とあるが、目的は「義」に適っていなければならない。猪突猛進を戒め、「死に値しないもののために死ぬことは犬死(40p)」としている。
また、「真に果敢な人間は常に穏やか(43p)」であるとし、致命傷を負いながらも、刺客が詠んだ上の句に下の句を続けた大田道灌や敗走しながらもに詠みかけた歌に上の句をつけた安倍貞任の話が引用されている。
○「仁」
愛、寛容、他者への情愛、哀れみは気高く、光り輝く「王者の徳(47p)」としている。「義」や「勇」が男性的であるのに対して、「仁」は「優しく柔和で母のような徳で..慈悲は女性的(51p)」であるが、サムライはむやみに慈悲に溺れることを戒められた。伊達政宗はこれを「義に過ぎれば硬くなる。仁に過ぎれば弱くなる。(51p)」と言った。ところで「か弱き者、敗れたる者、虐げられた者への仁の愛情は、特にサムライに似つかわしい(53p)」としている。話はスポーツと武道の話になるがスポーツのみならず武道においても勝者はその感情を露わにすることが目に付く。孟子は「惻隠の心は仁の端(はじめ)なり(52p)」と言った
また、戦場に向かう武士が「立ち止まり..歌を詠むこと..戦場で死者の兜や鎧をはぐと、その中から辞世の句が見つけ出されること(58p)」は稀ではなかったという。野獣のような粗野な連中が時代とともに変貌したようだ。
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コメント
朝夕は涼しくともフェーン現象のせいか日中は暑くてたまりません。葉隠の中の四つの誓願は今の時代必要なことといつも思っています。
真剣であること、忠誠、親孝行、そして慈悲・・・色々と難しく言うより気は優しくて力持ちと言うことでしょうか。(たまには真面目・・)
投稿: 両子の仁王 | 2008年9月 5日 (金) 14:38
仁王さんへ
涼しくなりました。そして日の出がだんだん遅くなりました。
理想は「気は優しくて力持ち」に近いと思います。強靭な肉体、強いハートそして人の痛みが分かる心を持ち合わせたいなと思わせる一冊です。
投稿: 末吉 | 2008年9月 5日 (金) 21:35