「“普通の顔”を喪った9人の物語」 2003年
ジロジロ見ないで―“普通の顔”を喪った9人の物語 著者:高橋 聖人,茅島 奈緒深 |
以前、TVでタッチ先生こと鳥取大学の藤井教授の活動を見た。陽気な笑顔で子供達に接していた。顔まで触らせていた。それからずっと気になっていた。病気や怪我で通常の人と「何か」が異なってしまった人がいる。それが顔であったがために本人の心と人生を左右している。9人の経験談は小学生を意識し、字数は少なく、読み上げてしまうだけなら1時間も要らない。(BOOK・OFFにて105円で購入)
本の構成はまず、著者毎に素顔の写真が数ページ、そして本人の執筆が続く。現実を直視することから始まる。当初、この企画に同意したのは3人だった。理由は容易に想像できる。9人が同意するまでに1年半経過した。私の世代にはなつかしい「柔道一直線」の「風祭右京」役だった佐々木剛も火事で全身の70%に火傷を負った。
ほとんどの著者達がいじめを経験している。あるときは言葉で、あるときは行動である。藤井教授は「ツバをかけられたのは..100回ぐらいはあった(26p)」と言っている。しかし、見て見ぬ振りをしてきた傍観者への反感はない。友人や教師は何をしてきたのか。そして自分には何が出来るのか。
思春期の頃、周りからの不合理な仕打ちには笑顔のお辞儀で接したり、いじめ返したり、まくし立てたり、ケンカしたりと様々である。ヤケドで欠けてしまった指を「可愛い」と言われ「勇気づけられた」と感じた著者もいる。相手が親友だからこそであろう。TPOによって正解は変わる。
例え心の葛藤を乗り越えても、成人すれば就職に苦労している。外出すれば好奇の視線が向けられる。大学生の久保氏はニューヨークでの体験を聞き海外に出かけ人種の集まる「シドニーではイヤな視線を感じることはまったくなかった。それどころか、通りすがりの人と目が合えば、笑顔が返ってきた。(88p)」と記述している。単一民族に近い島国の日本人は姿、形が異なる人たちへの寛容さが低いであろう。そして、自分が人と異なることを恐れる。さらに無意識に異なる人を排斥しようとする。
最期の著者の阿部更織さんは円形脱毛症で全身脱毛に苦しんだ。しかし、その素顔は美しい。それはその若さのせいもあるかも知れない。だれもが経験するいじめを受け、家庭内暴力から脱して、同じ悩みを抱える人たちのために働いていた。一見、自信に満ちたカウンセラーとしての人生を送っていた。仕事の予定は3ヶ月先まで埋まり順調に見えた彼女も心に闇を抱えていた。自らの命を絶ってしまった。何に耐え切れなかったのかはわからない。享年28歳..
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