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2007年3月 4日 (日)

「バカの壁」 -養老孟司-

バカの壁 Book バカの壁

著者:養老 孟司
販売元:新潮社
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 以前から気になっていた本だった。養老氏が著者だが執筆していない。口述を文章化している。「独白を続けて、それを文章にしてもらったのは、じつはこれがはじめて(3p)」らしい。だが正直なところ「バカの壁」というタイトルはしっくりしない。著者は1937年生まれで70歳に近い。終戦は小二で迎えているので団塊の世代よりさらに上の世代だ。東大医学部に入学し、そのまま教授になった生え抜きか。反発も感じながら、強く共感する部分があった。

○第1章『「バカの壁」とは何か』・・教師がいわゆる偉人の生き様を示し、「立派な人になりましょう」と教育すれば、生徒は「地上のどこかに適切な判断と発想により正しい振る舞いが出来る人がいる。」と勘違いするかも知れない。絶対間違わない人なんていない。「人間は、何か確かなものが欲しくなる。そこで宗教を作り出してきた..完全に把握している存在が..「神」である。(20p)」鈴木宗男氏の疑惑報道は男子生徒がお産の情報を見ても自分は知っていると「情報遮断」するようにジャーナリズムに「思考停止」が起こっているということか。堀江貴文はどうか。

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○第2章『脳の中の係数』・・外界からの刺激(入力情報x)に対して、人間の反応(y)を「y=ax」で表現し、aが脳の中での係数だという考え方は分かりやすい。a=「無限大」の代表例として「原理主義」が取り上げられ批判される。aが適正でないと適応性がないということになる。

○第3章『「個性をのばせ」という欺瞞』・・著者の文部科学省への「子供の個性を尊重する(43p)」教育への批判が始まる。「個性なんていうのは初めから与えられている(49p)」

○第4章『万物流転、情報不変』・・「自分は変わらない、自分にはいつも個性がある..はあべこべ(52p)」としています。人間は変化し昨日の私と今日の私は「明らかに別人(53p)」ということです。これに対して「流転しないもの..それが情報(53p)」ということになる。人間が変わることの例えとして「ガンになって..半年の命だと言われる..そしたらあそこで咲いている桜が違って見えるだろう..桜が変わったのか。そうではない。それは自分が変わったということ(60p)」そして「そういう経験を何度もした人間にとっては死ぬということは特別な意味を持つものではない。(62p)」過去に何度も死んでいるから。死ぬほど仕事をしているか。「方丈記」「平家物語」の時代には体の中に諸行無常の考えがあったのだろう。考えさせられる。

○第5章『無意識・身体・共同体』・・「脳化社会」という言い回しが出てくる。「人間が脳の中で図面を引いて作った世界(90p)」である。ここの住人は自らの身体と向かい合ったことがなくオウム真理教の神秘体験の予言に面白いように引っかかる。「文武両道」とは文と武のバランスではなく、学問と行動のやり取りである。取扱説明書ばかり読んでも駄目、読まずに勘で操作しても駄目ということ。車の両輪である。アウシュビッツでの収容経験を持つV・E・フランクルが人生「意味は外部にある」と論じたことを紹介した。「人生の意味は自分だけで完結するものでなく、常に周囲の人、社会との関係から生まれる(109p)」。子供と別れることを嘆くガン患者に「身内がいなければ嘆くこともできない..それが全くない人もいる(111p)」と答えること、9・11同時多発テロで「犯人たちが強い意味を感じているということ(111p)」を例示している。著者は「喰うに困らない」に続く次のテーマを「環境問題」としている。私は以前から「子供たちが住みやすい社会」と思っていた。符合する部分はある。しかし、切迫していないから無理やりテーマを探すのか。

○第6章『バカの脳』・・神経細胞の刺激伝達で成り立つ脳の仕組みにおいてイチローや松井秀喜は伝達の経路であるシナプスを「飛ばす」ことで「早い」出力ができる。ピカソは空間能力を「消す」ことでデッサンを「合体」できた。省略や消去が天才の能力であることは意外である。

○第7章『教育の怪しさ』・・寺島実郎氏と同様に「学園紛争当時から彼らの言い分を全然信用していなかった(161p)」。さらに「情報でなく、自然を学ばなければいけない・・それが欠落している学生が多い。・・東大病院で研究者が臨床へ出てくると、“二年懲役だ”なんて言っている」ことを紹介している。

○第8章『一元論を超えて』・・「欲望」という表現で政治、ジャーナリズム、そして戦争を論じている。「相手が死ぬのを見ないで殺すことができるという方法をどんどん作っていく方向で進化している。(184p)」「ナイフで殺し合いをしている間は、まさに抑止力が直接働いていた。(185p)」まさに米国批判である。そして一元論の限界を二元論と対比しながら論じている。

投稿: すえよし | 2007年3月 4日 (日) 20:43

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